不動産投資用物件の購入など、大きなお金を動かすことになる不動産投資では、さまざまな要因によって赤字経営となる可能性があります。
老後の資金を作るつもりではじめた不動産投資で赤字が発生しますと、心配になる人も多いかもしれません。
実は、不動産投資では問題とならない赤字もあるのです。
今回は、不動産投資が赤字経営になる原因と、「良い赤字」、「悪い赤字」について詳しく解説。
損益通算やその他の対策をはじめとする、赤字脱却方法についてもご紹介していきます。
不動産経営でお悩みの方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
不動産投資での「赤字」はどんな状態のこと?
不動産投資での収益は、一年間の家賃収入から、ローン返済の金利・管理会社への手数料・修繕費などの経費、そして固定資産税などの租税公課の合計を引くことで算出されます。
この時に収益がマイナスとなった場合は「赤字」です。
つまり、年間の家賃収入よりも支出が多いと儲けが出ず、自己資金からの持ち出しが多くなり、マンションなどの賃貸経営を続けることが難しくなります。
それ、本当に赤字?「赤字」には2パターンある
不動産投資における赤字には、大きく以下2つのパターンに分けられます。
- 帳簿上の赤字
- キャッシュフロー上の赤字
帳簿上の赤字とは、キャッシュフローは黒字、損益計算書上では赤字になっている状態のことです。
不動産投資では、物件の設備や建物の劣化による価値の減少を、減価償却費として経費計上できます。
そのため、帳簿上でのみ赤字になることがよくあります。
一方で、キャッシュフロー上の赤字とは、帳簿上だけでなく、実際にキャッシュフローがマイナスになっている状態のことです。
特に注意をしなければならないのは、こちらの「キャッシュフロー上の赤字」の場合。
キャッシュフローがマイナスの状態が続くと、手元の資金が減少してしまうため、非常に危険な状態といえます。
赤字の原因とは?
ここでは、不動産投資初心者にありがちな赤字の原因について解説します。
①収入に対してローンの返済額が大きい
不動産投資で赤字が発生する典型的な要因の一つとして、賃料に対するローン返済額の割合が高いことが挙げられます。
例えば、「ローンを完済した後に年金代わりの収入になればそれで良い」と、利益がほとんど残らない収支に設定しているケースなどです。
不動産投資では、予期せぬ支出が発生して収支がマイナスに傾くことは少なくありません。
そのため、余裕を持って利益が出るように計画を立てることが大切なポイントとなります。
このポイントをおろそかにすると、赤字発生の要因となる可能性があります。
②購入時の見込みが甘い
購入時に、現実に即した収支のシミュレーションをしていないことも、赤字の要因となります。
投資用物件を購入する際、営業担当者から期待利回りに関する説明を受けます。
しかし、その際に提示される期待利回りのパーセンテージは、多くの場合、単純に返済額と賃料を単純に並べた「表面利回り」という数値です。
「表面利回り」には、空室リスク、物件自体の価格の下落、修繕費用などは加味されていないため、鵜呑みにするのは危険です。
予期せぬリスクが顕在化した場合も慌てずに済むよう、あらかじめさまざまなリスクを考慮した上で現実的な収支の計画を立てなければなりません。
③空室割合が高い
マンション一棟やアパート経営の場合には、空室が出るとその分の家賃収入が減ります。
さらに区分マンション経営の場合には、家賃収入自体がなくなってしまいます。
収益が少なくても管理費や修繕積立金は毎月支払う必要がありますので、結果的に年間で赤字となるケースもあります。
④ローンの金利上昇による負担の増加
不動産投資ローンを変動金利で借り入れていると、金利の上昇によって返済額が増加します。
借り入れている金額にもよりますが、0.5%程度の金利上昇で、毎月の返済額が1万円~2万円ほど増加することは珍しくありません。
余裕を持った賃料に設定していれば、金利上昇だけでは大事に至らないことも多いです。
しかし、予期せぬ支出が続いた場合などは、収支にじわじわとダメージを与えることになります。
⑤修繕費がかさむ
とくに築年数の古い中古物件で注意したいのが、高額な修繕費が発生する可能性もある点です。
水回りの設備や排水管などが、経年劣化で突然不具合を起こして、修理や交換が必要となったり、自然災害により建物が被害を受けたりすることもあるかもしれません。
突発的に高額な修繕費が発生し、総収入額を上回った場合には赤字となってしまいます。
不動産投資の「良い赤字」と「悪い赤字」とは?具体例を紹介
デメリットだけでなくメリットにもなる場合がある赤字。
大きく分けて「良い赤字」と「悪い赤字」と定義しますと、それぞれ以下のようになります。
良い赤字
いわゆる「計上して得する赤字」には以下の4種類があります。
詳しく説明していきましょう。
減価償却で計上される赤字
事業に必要であり経年劣化していくものを購入した場合は、「減価償却資産」として認められます。
不動産経営では建物、経理で使用するパソコンなどがこれに当たるでしょう。
資産の質によって法的耐用年数が決められていて、新品(新築)であれば取得費用をその年数で割り、その間毎年経費計上することが可能です。
中古の場合は償却年数を出す計算式があります。ちなみにパソコンの償却年数は4年です。
このように減価償却費として計上できる赤字は、資産としてのものが手元に残りつつ支出として認められますので、ダブルでお得になると言えます。
ローン返済のための少額持ち出しで発生する赤字
4,000万円を借り入れて毎月2万円ほどの少額でローン返済を続けていく場合を考えてみましょう。
例えば返済期間が20年間だとするとその間は家賃収入が入りますが、ローンの金利もかかることになり、初期はどうしても赤字が発生することになります。
しかし不動産投資物件を購入するために自己資金の4,000万円が貯まるのを、20年間待つのは得策とはいえません。
一気に借り入れて毎月少額のローン返済を続けていくほうが、その間に節税効果が得られますし、家賃収入による資産形成ができます。
さらに、ローン返済後には物件が資産となりますので、この場合の赤字は問題がないと言えます。
キャピタルゲイン(売却益)を下回る赤字
将来近くに駅ができる構想があるマンションなど、好立地が予想される物件では、将来的に物件価格が上昇する可能性が高くなります。
このように、将来売却する際の価格が元の購入価格よりも高くなりそうな物件で、現在発生している赤字がその差額よりも小さい範囲で収まっているのであれば大丈夫でしょう。
悪い赤字
不動産投資における収支で、以下のような赤字が続くと深刻な問題に発展する可能性が出てきます。
空室により発生する赤字
区分マンション1室を不動産投資として運用する場合、空室が発生して家賃収入が入ってこなくても、毎月のローン返済という支出は続きます。
すぐに空室が埋まれば大きなトラブルにはなりませんが、空室が続く場合は家賃収入によるキャッシュフローが見込めず、毎月のローンの返済も難しくなってくるでしょう。
売却しようとしても、赤字続きによる物件価値の低下で売却価格も下がってしまいます。
このような不動産投資は、トータルで見て失敗だと言えるでしょう。
高いローン金利により発生する赤字
不動産経営で経費に計上できるのは、毎月のローン返済額ではなく「ローン金利」です。
物件の購入でローンを組んだ場合、課税所得が減額されて節税効果となりますが、減価償却費と認められる物件購入費用などとは違い、ローン金利はものが手元に残るわけではない単なる出費です。
ローン金利は、安ければ節税効果が期待できますが、高いと節税効果どころではなくどんどん現金が減っていくことになります。
実は、赤字計上はデメリットばかりではない?損益通算で税金対策が可能!
不動産経営が赤字になってしまった際、節税効果が得られる「損益通算」が使えるケースがあります。
その仕組みやメリット、計算方法などを詳しく解説していきます。
損益通算の仕組み・メリット
損益通算とは、「給与所得など他の所得」と「赤字になってしまったマイナスの不動産所得」をあわせることで、課税対象となる所得の総額を減らすことができる節税方法です。
つまり、他の黒字所得と赤字所得を相殺するようになります。
不動産経営で必要経費として計上できるものには、管理費、損害保険料、固定資産税、修繕費、減価償却費などがあります。
物件をローンで購入した場合、この中で「減価償却費」だけは、実際にその年の出費にならない費用です。
不動産投資では、「アパートやマンション=事業で用いる資産」と位置付けられます。
これらの資産の価値は年々減っていくことから「減価償却資産」と呼ばれています。減価償却の対象となる資産を購入した際の金額は必要経費として計上できますが、購入した年に全額計上するのではなく、資産の使用可能な全期間(残耐用年数)にわたって分割で計上していきます 。
つまり投資用物件をローンで購入した場合には、全額返済していないにも関わらず、その購入金額を分割し経費として一定の期間は計上できるのです。
損益通算の計算方法
不動産投資における損益通算の計算方法は、以下の3ステップです。
- 本業の所得を計算する
- 不動産所得を計算する
- 本業の所得と不動産所得を足し合わせて課税対象額を算出する
本業の所得は給与所得以外に、「利子所得」や「配当所得」「雑所得」も対象です。
また不動産所得は、不動産収入から経費を差し引いて計算します。
不動産収入と経費の例は、以下の通りです。
不動産収入 | 経費 |
---|---|
・家賃収入 ・更新料 ・共益費 ・礼金 ・返金のない敷金 など |
・修繕費 ・固定資産税 ・不動産のローン返済 ・保険料 ・減価償却費 など |
収入よりも経費が上回った場合、損益通算ができます。
【注意】損益通算できないケース
以下のケースは、不動産所得が赤字であっても損益通算できないため注意しましょう。
- 別荘のように趣味、娯楽、保養または鑑賞の目的で所有する不動産の貸付にかかるもの
- 土地取得にかかる借入利息相当
- 国外中古不動産の原価償却相当分
それぞれについて解説します。
別荘のように趣味、娯楽、保養または鑑賞の目的で所有する不動産の貸付にかかるもの
別荘などは、生活や賃貸経営に必要な資産とは認められないため、赤字であっても損益通算の対象外となります。また所得時の赤字分についても同様です。
土地取得にかかる借入利息相当分
通常、土地の取得にかかる借入利息は必要経費になりますが、「損益通算の特例」として不動産所得が赤字になった場合は、赤字分から土地の取得にかかる借入利息相当を控除した金額が損益通算の対象となります。これは区分マンションにも適用されます。
国外中古不動産の減価償却相当分
法改正により、令和3年以降の国外中古不動産から生じる不動産所得の赤字部分のうち、減価償却費相当分については損益通算できないと定められました。
ただし、赤字が続くと物件価値が下がる可能性があるので注意が必要
不動産経営での赤字は節税対策となる反面、赤字が続くと「収益性が低い物件」と判断されてしまう可能性が出てきます。
物件を売却しようとしても査定額が低くなったり、そのせいで売却損となってしまったりしますので、赤字経営を長く続けるのは避けたいところです。
赤字になってしまったらどうする?早期に脱却するための方法
上記でご紹介したような「悪い赤字」が発生してしまったら、以下の2つの方法でできるだけ早めに経営の方向性を修正しましょう。
リフォームや管理体制の改善を行う
空室によるキャッシュフローの減少を食い止めるためには、物件を魅力的にリフォームするなどして集客性を高めるのが効果的です。
また、物件の管理を委託している会社を再考してみる良い機会でもあります。
不動産会社と同様に管理会社もたくさんあり、空室リスク対策に強い、入居者間のトラブル解決に強い、災害時の対処経験が豊富など、それぞれ得意分野を持っています。
物件の管理を委託している会社を、空室リスク対策に強い管理会社へ変更するのもおすすめです。
安いローンに借り換える
高い金利で赤字が続く場合は、できるだけ早期に安い金利のローンへの借り換えを検討しましょう。
ローンの借り換えでは、現在の融資元へ支払う手数料(印紙税、保証料、事務手数料、全額繰り上げ返済手数料等)がかかることになります。
しかし高い金利で借り続けるよりもトータルで節約できる可能性が高いです。
安いローンに借り換えた後に、可能であれば繰り上げ返済を行えれば、さらに返済額を抑えられます。
不動産投資の初心者の場合、融資を受けることが目的になってしまい、実際にローンの返済が始まるとローンの見直しをしない人も多いようです。
ローンは借りっぱなしではなく、時々ほかの金融機関の金利もチェックするなど見直すようにしてください。
ローンの繰り上げ返済を行う
ローンの返済額が家賃収入よりも高く赤字が続いている場合は、ローンの繰り上げ返済を行うのが有効な対策のひとつです。
繰り上げ返済を行うことで、毎月のローンの返済額を引き下げることができます。
ただし、手元に資金的な余裕がない場合は控えるようにしましょう。物件の修繕などで資金が必要になったときに対処できなくなるおそれがあります。
資金的な余裕があり、ローンが原因で赤字が続いている場合は、繰り上げ返済を検討してみましょう。
投資物件を売却する
不動産投資で赤字が続いており負担になっているなら、赤字額が膨れ上がらない早めの段階で、物件を売却するのも選択肢のひとつです。
物件を売却することで、ローンを完済できるうえに、手元に資金が残る可能性があります。
ローンが完済できて手元に資金がほとんど残らなくても、資金の持ち出しはなくなります。
不動産投資が負担になっている方は、物件の売却を検討してみましょう。
記事まとめ
赤字計上には「良い赤字」「悪い赤字」があることを知っておきますと、不動産投資の失敗につながりにくくなります。
ただし、家賃収入や売却益による収益を得るために不動産投資を行っているはずですので、赤字計上による節税効果を大きな目的だと勘違いしないようにしてください。
赤字になる原因とそれぞれの違いを把握することで、健全な運用を続けられます。
もし「悪い赤字」に気がついたら、できるだけ早めに軌道修正を行いましょう。