「地上権」と「賃借権」は土地を借りて建物を建てる権利のことで、合わせて「借地権」と呼ばれています。
この2つの違いを見落としていると、場合によっては不動産トラブルになることもあるので注意しましょう。
この記事では、地上権と賃借権についてそれぞれの概要を説明した上で、地上権と賃借権の違いを解説します。
不動産投資や運営について興味のある方はぜひ参考にしてみてください。
目次
地上権・賃借権は借地権の下位分類に当たる権利
地上権・賃借権とは、「土地を使用する権利」を指す専門用語。
土地の権利は所有権である「底地権」と、使用権である「借地権」の2つにわけられます。
そして、借地権をさらに分類したものが地上権と賃借権です。まずは、地上権と賃借権とはなんなのかを押さえていきましょう。
借地権とは?
「借地権」は建物の所有を目的とした権利で、地上権と賃借権の2つを指します。
「借地権」の目的は「借り手の保護」であり、借り手にとって不利な特約は基本的に不可能です。
存続期間
借地権には1992年に成立した借地借家法に基づく「普通借地権」「定期借地権」、またそれ以前の「旧借地権」の3種類があります。
存続期間 | 契約の更新 | 建物買取請求 | 契約の終了 | |
---|---|---|---|---|
旧借地権 | 木造:20年 鉄骨・RC:30年 | できる | できる | 正当な事由が必要 |
普通借地権 | 30年以上 | できる | できる | 正当な事由が必要 |
定期借地権 | 50年以上 | できない | できない | 期間満了後に確定終了 |
借地権の更新
旧借地権と普通借地権には更新期間が設けられており、その更新には「合意」「請求」「法定」による3種類があります。
合意による更新は最初の更新は20年以上、2度目以降の更新は10年以上となります。地主に請求して更新する場合は、建物がある場合に限られ初回の更新は20年、2度目以降は10年となります。
地主から「正当な事由」(土地の利用状況や地主が土地を必要とする事情等)があった際は打ち切られる可能性もあります。
法定更新も合意・請求更新と同様に最初の更新は20年以上、2度目以降の更新は10年以上で正当な事由が無い限り継続されます。
「定期借地権」には期間の更新がない
定期借地権とは更新のない借地権のことで、一般定期借地権、事業用定期借地権、建物譲渡特約付定期借地権の3種類があります。
3つの定期借地権の違いは以下の通りです。
一般定期借地権 | 事業用定期借地権 | 建物譲渡特約付定期借地権 | |
---|---|---|---|
存続期間 | 50年以上 | 10年以上30年未満 30年以上50年未満 | 30年未満 |
用途 | 限定しない | 専ら専業の用に供する建物の所有 | 限定しない |
契約の方式 | 公正証書等の書面で更新の排除を特約。 | 借地権設定は公正証書により契約する。 | 30年以上経過した後建物を譲渡する旨の特約を記述する。書面は制限なし。 |
契約終了後の建物利用 | 建物買収請求権は不適用。建物の利用は継続不可。 | 建物買取請求権は不適用。建物の利用は継続不可。 | 建物を譲渡する特約を実行し、建物の利用は継続不可。 |
地上権とは第三者に譲渡した土地の使用権のこと
地上権は、「地上部分を好きに使っても良い権利」です。地主が賃借人に地上権を与えた場合、賃借人は自由に家を建てたり建て替えをしたり、建てた物件を売却・譲渡したりできます。
賃借権に比べると賃借人側の権利が大きいため、地主の立場からするとデメリットも少なくありません。
賃借権とは第三者に貸した土地の使用権のこと
賃借権は、お金を支払うかわりに土地の使用権を借りられる権利のこと。あくまでも契約の一種で債権なので、権利としてはあまり強くありません。
地上権に比べるといくつか権利的に制限されており、賃借権契約の場合賃借人は家を建て替えたり、大規模なリフォームをしたり、売却・譲渡したりする際に地主の許可を取る必要があります。
それぞれの違いを「権利の強さ」「同意の有無」「契約期間」の3点から解説
地上権と賃借権の違いは、以下の3点にあります。
- 権利の強さ
- 売却・譲渡時に地主の同意が必要かどうか
- 契約期間の決め方
順番に見ていきましょう。
地上権は圧倒的に地上権よりも権利が強い
地上権と賃借権を比べた場合、権利としての強さは圧倒的に地上権のほうが上です。
イメージとしては、分譲マンションの一室を購入しているのが地上権を所有している状態。賃借権は、お金を払って賃貸マンションの一室を借りている状態です。
地上権を持っていれば、たとえ分譲マンションのオーナーが変わったとしても、分譲マンションの一室は自分のものとなります。オーナーが変わったからといって、一方的に部屋から追い出される等のトラブルはめったなことでは起こりません。
しかし、賃借権の場合、賃貸マンションのオーナーが変わったら「家賃を上げる」「建物を取り壊すから退去してほしい」といわれてしまう可能性があります。 賃借権の根拠となる賃貸借契約は、あくまでも以前のオーナーと1対1で交わした契約だからです。そのため、不動産を持っている人が土地を売ったり譲渡したりした場合、家を失ってしまう可能性があります。
ただし、借地借家法という法律によって、「建物の登記をしていれば賃借権を主張できる」というルールがつくられているため、賃借権の保護は手厚いです。法的な知識があったり、専門家を頼ったりすれば、賃借権だからこそ起きるトラブルにも対処できるでしょう。
地上権は物件なので地主の同意なしで自由に売買・譲渡できる
土地の借地権である地上権は、賃借人側にかなりの自由が与えられています。
地上権を持っている人は、地主の同意を取ることなく自由に家を建て、リフォームや増築をして、地上権や家を売却・譲渡・賃貸可能です。
一方の賃借権は、「こういう家を建てるかわりにお金を払うので、土地の使用権を貸してほしい」という契約に過ぎません。 大きなリフォームや増築で契約内容が変わったり、賃借権を売却・譲渡して契約者が変わったりする場合は地主の許可を得る必要があります。 仮に地主の許可を取らずに建物や賃借権を売却・譲渡すると、高確率でトラブルになってしまうため注意しましょう。
地上権の契約期間は無限にできるが賃借権の契約期間は有限
地上権と賃借権は契約期間にも違いがあります。
地上権の場合、底地権の所有者である地主と、地上権の持ち主である賃借人との間で同意できれば、期間に限りはありません。
10年や20年などの短い契約をすることもできますし、存続期間をなしにして永久に地上権を相手に渡すこともできます。
賃借権の場合、賃貸借契約の内容によって契約期間が変わります。
もっとも基本的な賃借権契約の期限は、借地借家法に定められた30年。基本的に、初回の契約時は30年以上の期間で契約をすることになります。 また、「事業用定期借地権」といって、自宅ではなく商業用の店舗や賃貸物件等を建設するために賃借権を設定する場合、初回の契約期間は10年から50年未満です。
【記事まとめ】地上権と賃借権の違いを知って将来の不動産トラブルを回避しよう
地上権と賃借権には、権利の強さや契約期間の長さ、売却・譲渡の際に地主の同意が必要かどうかなどさまざまな違いがあります。 安易に手持ちの土地に地上権を設定したり、周囲の相場と比較してお得だからと賃借権のある土地を購入して不動産経営等をはじめたりすると、トラブルに巻き込まれてしまうことも。 地上権と賃借権の違いを知って将来の不動産トラブルを回避できるようになりましょう。