税理士が教える 不動産投資でお得に節税する方法
この記事では、「副収入を得るために不動産投資を検討している。不動産投資のメリットと注意点を知りたい」という方や、「不動産投資をすると節税できると聞いたが嘘ではない?本当ならばなぜかを知りたい」という方に向けて、節税面を中心とした不動産投資のメリットと、不動産投資を行うにあたっての注意点を解説します。
この記事を最後までお読みいただくことで、「不動産投資のメリット」「不動産投資で節税ができる仕組み」「節税するためのポイント」「具体的な節税効果」「不動産投資の税務面での注意点」を理解することができます。
まずは「不動産投資のメリット」から解説していきます。
不動産投資のメリット
副収入を得ることができる
不動産投資の大きなメリットは、本業の他に副収入(家賃収入)を得ることができる点です。
たとえばワンルームマンションを5部屋持っていて、1部屋あたりの家賃収入が8万円だとすると、給料の他に毎月40万円の現金を手にすることができます。
ますます将来の不確実性が高まる現代において、「2つの財布」を持っておくことは強力なリスクヘッジの手段です。
副収入を得られる他の手段として、Webライターや運送業の配達員などの副業もありますが、副業が禁止されている企業も多い上に、サラリーマンが土日も働くのは心身ともに大変です。
不動産投資の場合は、こういった副業に比べると日常割く時間が圧倒的に少ないので、サラリーマンや公務員の方にもおすすめです。
節税できる
不動産投資のもう1つのメリットは「節税できる」という点です。特に築年数が経過した木造の中古アパートは節税効果が大きく、購入してからしばらくの間は給与所得や事業所得にかかる税金を節税することが可能です。
以下では、不動産投資で節税ができる仕組みと節税のためのポイントを詳しく解説します。
不動産投資で節税ができる仕組み
節税できる仕組み
不動産投資で節税ができるのは「損益通算」というルールがあるためです。損益通算のルールは所得税法第69条に規定されています。
損益通算とは?
「損益通算」とは簡単にいうと利益(黒字)と損失(赤字)を相殺する手続きのことです。
たとえば、サラリーマンであるA氏の給与所得が800万円、投資用不動産から得た不動産所得がマイナス100万円だった場合、800万円から100万円を引いた(相殺した)後の700万円をベースにA氏の所得税と住民税が計算されます。
これが、不動産投資によって節税できる仕組みです。
給与所得の金額 | 800万円 |
---|---|
不動産所得の金額 | ▲100万円 |
損益通算後の所得 | 700万円 |
損益通算は「不動産所得で生じた損失(赤字)を他の所得と通算できる」仕組みであるため、不動産の貸付を大規模にやっている人(たとえば賃貸用マンションを100室持っている)であっても、小規模にやっている人(たとえば賃貸用マンションを1室持っている)であっても、減価償却費などによって生じた不動産所得の損失を他の所得と損益通算できる点は変わりありません。
もっとも、投資用不動産の取り壊しや除却などによって生じた資産損失が損益通算できるかは、不動産投資が事業的規模で行われるか否かによって取り扱いが異なります。
この点は次のセクションで解説します。
節税できるのはどんな人?
不動産投資で節税できるのは、給与所得を得ている方(サラリーマンや公務員)や、事業所得のある方(自営業の方)など、賃料収入の他に収入のある方です。
無職の方は相殺できる黒字の所得がないため、不動産投資をしても節税にはつながりません。
また、投資用不動産の取り壊しなどによって生じた損失が損益通算できるのは、不動産投資を事業的規模で行っている方のみである点にご注意ください。
「事業的規模」の実務上の判断基準は、一戸建ての貸家の場合は5軒以上、マンションやアパートの部屋貸しの場合は10室以上とされていますから(これを「5棟10室基準」といいます)、たとえば賃貸用ワンルームマンションの部屋を20室持っている場合は事業的規模に該当します。
取り壊してしまったあとに「失敗した!」とならないよう、事前にルールを確認するようにしましょう。
どんな不動産でも節税できる?
居住用、あるいは事務所用の不動産であれば、新築でも中古でも節税の対象になります。
ただし、別荘など主に保養目的で取得した不動産は損益通算が認められないのでご注意ください。
なお、令和2年度税制改正で「国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例」が導入されたことにより、海外にある中古の投資用不動産で生じた赤字を損益通算することができなくなりました。海外の不動産を購入する節税方法を考えていた方は注意が必要です。
節税するためのポイント
青色申告承認申請書を提出する
所得税の申告には「青色申告」と「白色申告」があります。
青色申告だと、最大で65万円の青色申告特別控除を受けられる、青色専従者給与の適用を受けられるなどのメリットがあるため、不動産投資を行っている方は青色申告すると節税に繋がります。
青色申告をするには、納税地の税務署に「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。
提出期限は原則としてその年の3月15日までですが、新たに不動産の貸付けを開始した場合はその開始した日から2ヶ月以内に提出すれば問題ありません。
提出期限に間に合わなくて青色申告のメリットを受けられないという失敗をしないよう、早めに準備をして提出することをおすすめします。
なお、上述した青色申告のメリットは、不動産投資を「事業的規模」で行っている場合に限って受けることができます。
たとえば、賃貸用アパートを5室持っている人は、先に紹介した5棟10室基準に照らすと「10室以上」の要件を満たさないため、青色申告の承認を受けていたとしても最大で65万円の青色申告特別控除を受けることはできません(この場合、控除額は10万円となります)。
減価償却について理解する
「減価償却」とは建物や設備の取得価額を一定期間で費用化する手続きのことを言います。
減価償却は不動産投資で節税をするにあたって非常に重要な項目ですので、丁寧に説明します。
減価償却費の計算で理解しておきたいのは次の3点です。このうち特に重要なのは3点目です。
- 土地に対する減価償却費と借入金利子は経費計上できない
- 減価償却費の額は取得価額に償却率を乗じて計算する
- 中古資産の償却率は特別な計算方法によることができる
1点目について、土地や電話加入権など「使用によりその価値が減耗しない(減らない)資産」は減価償却費を計上できない「非償却資産」に分類されます。
非償却資産の取得価額は売却するまで費用化できないため、投資用に土地付建物を購入する場合は土地と建物の金額がそれぞれいくらかを確認するようにしましょう(土地付建物全体に占める建物の割合が高いほど、取得価額を早期に費用化することができます)。
2点目について、建物や設備などの「償却資産」の減価償却費は次の式で計算します。
- 取得価額 × 償却率
「取得価額」とは資産の取得に要した費用のことで、「償却率」は資産の法定耐用年数に応じた割合です。
毎年の減価償却費を増やすと収入額から引くことができる必要経費の額が増えるため、取得価額に計上できる費用を漏れなく拾い集めることが節税につながります。
3点目について、中古資産の償却率は法定耐用年数ではなく使用可能期間として見積もられる年数を基礎に計算することができますが、使用可能期間を見積もるのは困難であることがほとんどのため、簡便的に次の方法で計算します。
- 法定耐用年数の全部を経過した資産の場合:法定耐用年数の20パーセントに相当する年数(1年に満たない端数は切り捨て)
- 法定耐用年数の一部を経過した資産の場合:法定耐用年数から経過年数を引いた年数に経過年数の20パーセントに相当する年数を加えた年数(1年に満たない端数は切り捨て)
具体的な計算方法について、①築23年の木造アパート、②築10年の木造一戸建てを元に解説します。
①について、木造居住用建物の法定耐用年数は22年であるため、築23年の木造アパートは「法定耐用年数の全部を経過した資産」に該当します。
法定耐用年数の全部を経過した資産は法定耐用年数の20%に相当する年数で計算しますから、22年に20%を乗じた4.4年の端数を切り捨てた4年を基礎に計算します。
定額法で計算した場合の償却率は0.25であり、このアパートを2,000万円で購入した場合の1年あたりの減価償却費の金額は500万円です。
このような場合は、賃料収入よりも減価償却費の金額の方が高くなることが多いため、不動産事業は赤字になり、給与所得や事業所得との損益通算によって節税することが可能となります。
②について、築10年の木造一戸建ては「法定耐用年数の一部を経過した資産の場合」に該当するため、法定耐用年数(22年)から経過年数(10年)を引いた年数(12年)に、経過年数の20パーセントに相当する年数(2年)を足した14年を基礎に償却率を計算します(定額法の場合の償却率は0.072です)。
主な減価償却資産の耐用年数表は国税庁のホームページに掲載されています。木造以外の建物や、その他の資産の法定耐用年数はこちらの表でご確認ください。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/pdf/2100_01.pdf
なお、簡便法の適用を受ける場合は、その中古資産を事業に使い始めた年から簡便法で計算した償却率による減価償却費の計上を行う必要があります。
「事業に使い始めた翌年から簡便法で計算する」ことはできませんので、「自分だけだと失敗しそう」という方は、税理士に相談することをおすすめします。
必要経費に算入できる費用を漏れなく計上する
不動産所得の必要経費に算入できる費用を面倒がらずに漏れなく計上することも節税のポイントです。不動産投資に直接関連する費用であれば必要経費に算入することができます(税法で必要経費不算入となっている費用(例:所得税)は除きます)。
「不動産所得に直接関連する費用」の判断はケースごとに行いますが、たとえば次のような費用は必要経費に算入できるものと考えられます。
- 不動産投資セミナーの参加費用
- 物件をローンで購入した場合の借入金利子
具体的な節税効果
不動産投資の具体的な節税効果について具体例を用いてシュミレーションしてみましょう。
【具体例】
- 年収700万円の独身サラリーマン
- 2022年1月に築25年の中古木造アパートの3部屋を投資用に購入し、直ちに賃貸した
- 取得価額は3部屋合わせて3,000万円(建物2,000万円、土地1,000万円)
- 賃料収入は3部屋合わせて年200万円
- 減価償却費以外の不動産所得の必要経費は20万円
- 社会保険料控除(100万円)と基礎控除以外の所得控除はない
上記の具体例の場合、不動産投資を行わない場合の税金が所得税・住民税合わせて約70万円であるのに対して、不動産投資を行って不動産所得の赤字(▲300万円)を損益通算した場合の税金は約8万円というシミュレーション結果になりました(この税金は、年収が300万円のサラリーマンとほぼ同じです)。
つまり、上記の具体例における不動産投資による節税額は約62万円です。
不動産投資の税務面での注意点
不動産投資は確定申告が必要
1つ目の注意点は不動産投資は確定申告が必要である点です。
収入源が勤務先からの給料のみであるサラリーマンや公務員の方は、原則として確定申告を行う必要がないため、確定申告に対して不安感や抵抗感をお持ちの方も多いです。
確かに確定申告は時間と手間のかかる作業ですが、ここ数年で国税庁が便利な電子申告環境を用意してきているので、一昔前と比べると確定申告の作業はかなり楽になりました。
また、「確定申告で分からないことがあるときに誰に相談したらいいかわからない。税務署は怖いし、税理士だとお金がかかる」と思われている方も多いと聞きます。
実際には、近年の税務署職員は親身になって相談を受けてくれる人も増えてきている上に、市役所や青色申告会などが主催する税理士無料相談会でお金を払うことなく税理士へ相談することもできる環境が整備されています。
こうした環境下で、「確定申告が必要」ということは不動産投資を行う上でのデメリットとは言えなくなりつつあります。
不動産取得税や固定資産税などの税金がかかる
2つ目の注意点は不動産取得税や固定資産税などの税金がかかる点です。
不動産の取得時には不動産取得税や登録免許税(不動産登記申請の際に必要です)が、不動産を所有していると毎年固定資産税や都市計画税がかかります。
新築のアパートや戸建ての場合、一定の要件を満たせば不動産取得税の軽減を受けることができます。
軽減を受けるためのルールはケースによって異なりますので、取得前に税理士などにご相談されるとよいでしょう。
一方、中古のアパートや戸建ての場合、投資用に取得したものについては新築時のような軽減措置は用意されていません。
まとめ
以上、「不動産投資のメリット」「不動産投資で節税ができる仕組み」「節税するためのポイント」「具体的な節税効果」「不動産投資の税務面での注意点」を解説しました。
「不動産投資で節税ができる仕組み」の章では、不動産投資で節税できる鍵は、給与所得などから出る黒字と不動産投資から出る赤字を相殺する損益通算であることを紹介しました。
「節税するためのポイント」の章では、節税するポイントとして、青色申告をすること、減価償却について正しく理解すること、必要経費に算入できる経費を漏れなく集計することを紹介しました。
「具体的な節税効果」の章では、年収700万円のサラリーマンが不動産所得の赤字を損益通算することによって約62万円の節税ができる例を紹介しました。
「不動産投資の税務面での注意点」の章では、不動産投資の税務面での注意点は確定申告が必要であることと、不動産取得税などの税金がかかる点であることを紹介しました。
不動産投資を行うことで家賃収入を得ながら節税できているサラリーマンや公務員の方も多くいます。ますます不確実性が増す世の中で、「2つ目の財布」を獲得できる不動産投資に踏み出してはいかがでしょうか。