特別目的会社と呼ばれる「SPC」を使い、不動産投資をおこなっている投資家も多いのではないでしょうか。
SPCは不動産を証券化する仕組みの1つであり、不動産投資においてもぜひ知っておきたい知識の1つです。
今回はSPCについて知りたいという方に向けて、SPCの概要やメリット・デメリットを紹介します。また、SPCの代表的なスキームなどについても解説していきますので、興味をおもちの方はぜひ参考にしてください。
目次
SPCとは「投資ファンド」のこと
SPCとは「Special Purpose Company」の略称で、日本語では「特別目的会社」と呼ばれています。
企業は利益を上げることを目的として設立されるのが一般的ですが、SPCは「投資目的」で作られた会社で、いわゆるペーパーカンパニーと似ているところも少なくありません。
SPCは投資家のお金を集める箱ともとらえることができ、投資ファンドそのものを指す言葉ともいえます。
SPCの役割
投資におけるSPCのもつ役割は、おもに以下の3つです。
- 企業の資金調達としての手段の1つ
- 多くの投資家より集めた資金で不動産を購入、インカムゲイン(運用益)やキャピタルゲイン(売却益)を投資家へ還元
- 不動産の証券化により資産流動化を助ける
SPCを使う場面として、例を1つ挙げてみましょう。
不動産購入で大きな資金を調達しようとする企業は、資金提供者(投資家)に出資を依頼します。企業の財務状況があまりよくない場合、投資家は資金の提供を迷いますが、このときに企業がSPCを設立します。
SPCは投資が最大の目的であり、財務状況を気にする必要がありません。
企業はSPCへ資産を譲渡し、SPCはその資産の運用益や売却益をもとにして証券を発行したり、金融機関から借り入れしたりします。
企業としては、このようにしてSPCから資金を調達することができるようになり、そして資金提供者である投資家には、運用益より配当金や利息などが割り当てられるという仕組みです。
SPVとの関係
SPCと似ているものに「SPV(Special Purpose Vehicle)」というものもありますが、こちらはSPCを含んだ、もう少し規模の大きい概念の「特別目的事業体」といわれています。
このSPVには会社だけでなく、組合や信託も含まれます。
PFIとの関係
PFI(Private Finance Initiative)とは、公共事業を実施する手法のことを指します。
PFI事業では地方公共団体が発注者であり、民間企業が設立したSPCの協力を得て、公共施設などの設計や建設、運営などをおこなっていきます。
不動産投資におけるSPCの代表的な3つのスキームを紹介
SPCには以下の3種類の代表的なスキームがあり、それぞれ特徴が異なります。
合同会社匿名組合スキーム
SPCでよく利用されているのが合同会社匿名組合スキームです。
合同会社としてSPCを設立し、投資家より匿名組合出資を受けます。
合同会社の設立では、公証人の定款認証が必要ありません。
そのため、株式会社よりも作りやすく、法人の維持管理費用も比較的少額で済みます。
特定目的会社スキーム
SPCのなかでも、「資産の流動化に関する法律(SPC法)」に則して設立されるのが「特定目的会社」と呼ばれる法人になります。
投資家を募集する際に、ハードルの高い金融商品取引業の登録が不要な点が特定目的会社スキームのメリットですが、事前に監督庁からの許可を得ておく必要があります。
また、投資対象の資産や財産権が豊富な点も魅力です。
不動産信託受益権だけではなく、現物不動産を取得することもできます。
投資法人スキーム
「投資法人・投資信託に関する法律」に則し、一定のテーマを定めて設立される法人は「投資法人」と呼ばれています。
投資法人スキームの特徴は、運用期間を定めずに長期運用をおこなうことと、収益性の高い資産への投資に利用されやすいことです。
また、ほかの2つのスキームとは資金集めのタイミングも異なり、投資法人スキームでは投資の前に資金を集めます。
そのため、通常の投資に比べて収益性の高い投資に用いられることが多くあります。
SPCを設立するために必要な手続きを解説
ここからは、SPCを設立するための具体的な手順を説明していきます。
難しい法律もありますが、1つずつ覚えていきましょう。
まずはSPC法を理解しよう
先述のとおり、SPC法とは「資産の流動化に関する法律」です。
SPC法は資産の流動化を可能にし、国内の資産証券化を促進する役目をはたしています。
平成10年のSPC法施行により、日本では特定の目的をもつ会社を作ることができるようになりました。
さらに2年後の平成12年の改正により財産権を含め対象資産の範囲が広くなったことから、より使いやすい法律にもなっています。
SPC法と会社法との違い
SPC法に則して設立される法人の種類は、社団法人・特定目的会社の2つがベースとなっています。
合同会社匿名組合スキームを利用して設立する場合には、会社法にもとづき合同会社の設立も可能です。
また、資本金については最低10万円以上となっています。
一方、会社法に則して設立される法人の種類は、株式会社・合名会社・合資会社・合同会社の4つです。
また、会社法では資本金が最低1円からとなっています。
SPCと一般の企業では設立の目的が違うため、適用される法律もそれぞれ異なるのです。
SPCの設立・登記・手続き
ここからは、SPCのなかの1つである特定目的会社を例に挙げ、設立する手順を説明します。
①定款の作成
商号、所在地、資本金、発起人などの情報を記載した定款を作成します。
②定款の認証
公証人役場にて定款の認証を受けます。
③出資金の払込
金融機関に特定資本金を預け入れ、「払込金保管証明書」を発行してもらいます。
④設立時の役員を選任する
特定目的会社の場合、少なくとも取締役1名、監査役1名が必要です。
⑤設立登記
法人の所在地を所轄する法務局にて、設立の登記をおこないます。
また特定目的会社の場合、登録免許税は3万円です。
上記の手続きを済ませ、資産流動化計画の作成と業務開始届出が完了すれば、いよいよ事業開始となります。
不動産投資に導入するメリットとデメリットとは?
ここからは、企業がSPCを導入するメリットとデメリットについてについて解説していきます。
メリット
保持した資産が守られる
一般的な会社と異なり、SPCのおもな目的は投資です。
利益追求の会社ではなく、倒産とも無縁なため、保持した資産は守られます。
資産を切り離せる
SPCは企業がある資産のみを分離し、証券化するために設立される会社です。
企業の賃借対照表から資産(不動産など)を切り離すことで、企業の自己資本比率や総資産回転率、そして総資本利益率(ROA)の改善につながります。
デメリット
コスト・手間がかかる
会社法によると、資本金1円で会社を設立することができますが、SPCの設立では資本金は最低でも10万円が必要です。
また、スキームとして非常に複雑な仕組みをもっているため、会計監査や投資家への報告など、運用面に関するコストや手間がかかることになります。
不正利用される可能性も
企業から資産を切り離すことができるというメリットを悪用し、かつてはSPCを不正利用する企業も少なくありませんでした。
資金の迂回で含み損をもつ資産を売却したことにし、損失計上をなくすというものです。
ただし、現在は会計基準やさまざまな仕組みが厳格化されており、SPCを悪用することは難しくなっています。
記事まとめ
マンションやビルといった大型の不動産を不動産証券化の仕組み(SPC)を使って小口の有価証券に変えることで、多くのメリットを得ることができるようになります。
SPCは複数の物件に分散投資をしたり、少額で不動産投資をしたりする際に適した投資ファンドです。
不動産投資の際にはぜひ知っておきたい知識の1つですので、メリットだけではなくデメリットについてもしっかりと把握し、うまく活用しながら資産を増やしていきましょう。