副業として不動産投資を行っている、もしくはこれから新たに始めようと考えている人が徐々に増えてきています。
しかしサラリーマンの場合、家賃収入を確定申告する際に開業届を提出し、個人事業主として行ったほうがよいのか迷っている人もいらっしゃるでしょう。
今回は、個人事業主として不動産投資を行うメリットや注意点、円滑に運営するためのポイントを解説します。
また、「不動産投資事業の法人化」についても知っておくとベストです。
目次
個人事業主として不動産投資をするメリット
サラリーマンで給与を得ていても、不動産収入を個人事業主として確定申告することは可能です。
不動産投資を個人事業主として行うことで得られるメリットは以下の4つが挙げられます。
本業以外で収入が得られる
会社からの給与や自営業などのほかにも収入源があれば、減給や退職などの危機に万が一面した場合のリスクヘッジになります。
また、副業がアパート経営や区分マンション投資などの場合は、比較的安定した家賃収入を得ることができますので、今後の生活に心配することも少なくなるでしょう。
本業に負担をかけることなく収入を得られる
不動産投資で気になるのは、空室リスクのほかに「物件管理は手間がかかりそう」という点ではないでしょうか?
実際には、管理会社など専門会社に物件管理を委託することが多いので、オーナー自身には負担が少ないです。
そのため、本業に支障が出ることはほとんどないといえます。
かかった費用を経費として計上できる
収入が会社からの給与だけといった場合は年末調整のみで完了しますが、そのほかの収入が年間で20万円以上ある場合は、さらに確定申告が必要です。
不動産所得額(譲渡所得は除く)は以下の式で算出され、給与所得と合算して総合課税の総所得金額を再計算することになります。
ここで重要なのが、「必要経費」を収入から差し引いて計算するということです。
投資物件の管理維持費・設備の修繕費・火災保険料や地震保険料などのアパート経費、固定資産税や都市計画税などの税金(住民税は除く)は必要経費として計上することができます。
また、建物や設備などの減価償却費、ローン金利なども同様に計上可能です。
必要経費が多ければその分不動産所得額を減らすことができ、さらなる節税につながります。
青色申告で節税できる
不動産収入を確定申告する際には、白色申告と青色申告のどちらかを選ぶことになります。
白色申告では10万円の控除ですが、青色申告では一定の要件を満たせば65万円の特別控除を受けることが可能です。
白色申告よりも青色申告を選べば総所得金額が減ることになり、そこから所得控除を差し引いた課税所得も減りますので、より節税効果が高くなります。
個人事業主として不動産投資をする際の注意点
不動産投資は個人事業主として行うほうがメリットは多いですが、以下のような注意点もあります。
融資を受けるための審査が厳しくなる
自営業やフリーランスの場合は収入が不安定になりがちであるという理由で、投資物件を購入する際に金融機関からの融資を受けにくい場合が多いです。
一方サラリーマンの場合は収入が安定しているので、融資を受けやすくなります。
会社を辞めてこれから個人事業主になろうと考えている人は、金融機関からの信用を得にくいということを理解しておくことが大事です。
知識がないと黒字化が難しくなる
賃貸経営では、経費計上に関するさまざまな知識をしっかりと把握していなければ、節税や黒字につながりにくくなります。
また、ローンを利用して不動産投資を始めた場合には、しばらくは赤字が続いてしまうようになることも知っておきましょう。
不動産投資は突発的な費用が必要になる場合がある
キッチン・浴室・エアコンといった付帯設備には耐用年数がありますので、経年劣化や使用による劣化は避けられません。
経年劣化の場合だけでなく、火災や自然災害に遭った場合も含めて、修繕が必要になることもあります。
事業的規模を満たす必要がある
個人事業主として青色申告を行うためには、家賃による不動産収入が事業的規模でなければなりません。
この事業的規模についての詳細な基準はありませんが、物件数としては「5棟以上の貸家、もしくは10戸以上の区分マンションやアパート」程度だといわれています。
ただし、不動産収入の額によっては、物件数の基準を満たさない場合でも事業的規模と見なされるケースもあります。
個人事業主として不動産投資を「開業」するまでの手順
不動産投資の運用を始めたら、1ヶ月以内に「開業届」を税務署(居住地もしくは事業所のあるエリア)に提出する必要があります。
ここからは、すでに投資物件を所有し、不動産投資を始める人を対象として、個人事業主として登録する手順を解説していきます。
①
国税庁の公式サイトにて「個人事業の開業・廃業等届出書」をダウンロードする、あるいは所轄の税務署へ出向いて書類をもらいます。
提出用と控用の2枚が必要ですのでご注意ください。
②
用紙の「開業」の箇所に〇を付け、「個人番号(マイナンバー12桁)」など必要箇所を滞りなく埋めていきます。
事業者名となる「屋号」については必ずしも記入する必要はなく、「開業日」の箇所に開業した年月日を記入します。
③
写真付きの本人確認書類を持参し、記入した「個人事業の開業・廃業等届出書」を所轄の税務署へ提出します。
本人確認書類は、個人番号カード・運転免許証・パスポートなどが有効です。
④
開業した年の分から青色申告を希望する場合は、「青色申告承認申請書」も申請する必要があります。
「開業日が~1月15日」の場合は3月15日までに、「開業日が1月16日~」の場合は開業日より2ヶ月以内に提出しましょう。こちらも国税庁の公式サイトにてダウンロードが可能です。
不動産投資を円滑に運営するためのポイントは?
不動産投資を個人事業主として行う際のリスクを抑えるために、以下の5つのポイントを押さえておきましょう。
不動産投資に関する知識をつける
不動産投資で失敗しないためには、お金や税制などに関する知識をできるだけ身に付けておくことが重要です。
たとえば金融機関によってローン金利が異なること、青色申告で経費計上できる項目、赤字となった場合に青色申告では損失分を最大で3年間は繰り越しできるなど、知っていれば得になる知識は多岐にわたります。
自身の信用情報をクリーンにしておく
自営業やフリーランスの場合、ローン審査に通りやすくするためにも、クレジットカードの支払いや社会保険料の引き落としなどは滞納せずきっちり行うようにしましょう。
自分自身の信用情報に傷がついてしまうと、今後の経営に支障が出てしまうことも考えられます。
信頼できる人を保証人につける
こちらも自営業やフリーランスの人の場合ですが、ローンを組む際に金融機関から保証人をつけることを求められることがあります。
ただし、保証人は誰でもよいわけではなく「ローンの返済能力が高いと見なされる人」に限られますので、収入的、そして人間的にも信頼できる人にお願いするようにしましょう。
万が一のためにまとまった資金を準備しておく
不動産投資では、退去後の内装工事費や物件の劣化による空室リスクを防ぐためのリフォーム代などが必要になることがあります。
このような事態に備えるには、たとえばワンルームマンション1戸の投資の場合、家賃収入の2ヶ月~3ヶ月分のお金を用意しておくとよいといわれています。
常に最新の情報を収集する
物件周辺の環境や家賃相場・ローン金利の変化などについて、最新情報を入手するようにしましょう。
突然の空室発生によってローン返済が滞るなど、さまざまなトラブルを未然に防ぐことができます。
安定して収入が得られるようになったら法人化も検討しよう
まず挙げられる違いは、個人事業主には所得税が、法人の場合には法人税が課税されることです。
法人化のメリット・デメリット
賃貸経営事業を法人化した場合には、以下のようなメリットがあります。
メリット
・節税効果が高い
不動産所得がある一定以上になると、所得税よりも法人税のほうが税率は低くなりますので、節税になります。
また、損失発生時における繰り越しは、所得税の青色申告では3年間であることに対し、法人では9年間となります。
・経費(損金)に計上できる項目が増える
契約者が法人で受取人が役員という場合、生命保険などの保険料を経費(損金)として計上することができます。
デメリット
・法人化の手続きや会計が複雑
法人設立の手続きや会計は複雑であり、自分で行うとなると大変な作業になることが多いです。
税理士へ依頼するケースもありますが、その際は当然ながら依頼料がかかります。
・団体信用生命保険(団信)が使えない
物件を遺族が相続する際には、ローンも引き継ぐことになります。
法人化を検討すべきタイミングは?
所得額が900万円を超えると、所得税では33%、法人税では23.2%となり、法人税のほうが税率が低くなります。
ほかの所得と合わせて年間所得が900万円を超えるかどうかで、法人化を検討するとよいでしょう。
法人化するまでの手順
不動産事業を法人化する場合、まずは商号(社名)・資本金・役員構成・会社の形態(株式会社、合同会社など)を決めます。
法務局のサイトを参考にして法人の基本情報を含めた定款を作成し、株式会社の場合は公証人による定款認証を行います。
その後法務局で登記の申請を行い、それと同時に会社名義の銀行口座を作っておきましょう。
税務署・都道府県・市町村へ「法人設立届出書」と「個人事業の廃業届出書」を提出します。
また、税務署には「所得税の青色申告の取りやめ届出書」「予定納税の減額申請書」「青色申告の承認申請書」なども提出します。
まとめ
個人事業主として不動産投資を行う場合、複式帳簿による記帳など手間はかかりますが、青色申告することで節税効果を高めることができます。
賃貸経営が軌道に乗り、課税所得金額が900万円を超えることが予測できるようになった際は、法人化を検討することをおすすめします。